ホテル・旅館 · 代表 ジョーダン・フロリアン
稼働率98%は、危険信号かもしれない
「いつも満室」は経営の成功を意味しません。むしろ、価格が市場より安すぎることの証拠であることが少なくありません。
「うちはありがたいことに、ほぼ満室が続いています」。誇らしげに語られるこの言葉を、私は現場で何度も聞いてきました。そして帳簿を拝見すると、多くの場合、利益はほとんど残っていません。清掃は追いつかず、スタッフは疲弊し、設備の傷みは早く、それでも手元に残るお金は薄い。満室の宿が、静かに消耗していくのです。
ホテル経営の教科書は、稼働率(OCC)と客室単価(ADR)を掛け合わせたRevPAR(販売可能客室1室あたり売上)で考えなさいと教えます。しかし本当に大切なのはその先です。稼働率98%でADRが1万円の宿と、稼働率80%でADRが1万4千円の宿。RevPARはほぼ同じですが、後者のほうが清掃費も人件費も消耗も少なく、利益は明確に多い。同じ売上なら、稼働は低いほうが儲かるのです。
満室は「上限に張り付いている」状態
常に満室ということは、需要の天井がどこにあるか分かっていない、ということでもあります。1万2千円でも埋まったのか。1万5千円なら8割埋まったのか。試していなければ、答えは誰にも分かりません。満室は安心をくれますが、情報をくれません。価格という最も重要な経営変数が、検証されないまま固定されてしまうのです。
もちろん、闇雲な値上げを勧めているのではありません。値上げには順番があります。まず、誰が・いつ・どの経路で・なぜ自分の宿を選んでいるのかをデータで把握する。次に、価格に見合う理由(物語・体験・写真・レビュー)を整える。そのうえで、季節と曜日を選んで少しずつ試し、ブッキングペースを観察する。価格は一度に上げるものではなく、根拠とともに育てるものです。
満室の宿の経営者にこそ、一度立ち止まって問うてみてほしいのです。「この満室は、選ばれた結果か。それとも、安さの結果か」。その問いから、収益改善は始まります。
筆者:ジョーダン・フロリアン(KYOFLOW合同会社 代表)。ホテル・旅館の収益改善、観光地域づくり、日欧ビジネスの実務についてのご相談は、お問い合わせページからどうぞ。