日本の観光の議論には、不思議なねじれがあります。京都や鎌倉はオーバーツーリズムに悲鳴を上げ、その一方で、車で1時間離れた町は「観光客が来ない」と嘆いている。あふれる場所と、空っぽの場所。解決策としてよく語られるのが「分散」です。混雑地から地方へ観光客を流せばよい、と。
しかし現場に立つと、この発想の粗さが見えてきます。大型バスで乗りつけ、30分滞在して、飲み物を1本買って去っていく千人の団体は、地域に何を残すでしょうか。ゴミと、混雑と、わずかな売上です。地域が本当に必要としているのは「量」ではありません。工芸を買い、三泊し、翌年友人を連れて戻ってくる40人です。
「一人あたりの価値」を設計する
欧州の旅行者を見ていると、日本の地方が持つ資産の評価軸が、日本国内の常識とずれていることに気づきます。彼らが高く評価するのは、有名な絶景よりも、暮らしの手触りです。茶畑の作業、ローカル線の車窓、商店街の会話。日本では「何もない」と言われる風景が、彼らには「本物がある」と映る。この非対称性こそ、地方のインバウンド戦略の出発点だと私は考えています。
そのうえで大切なのは、来てほしい人に届く形で語ることです。4言語のパンフレットを刷ることではありません。彼らが既に見ている場所――信頼するメディア、フォローしているクリエイター、深く読み込む個人の記事――の中で、地域の物語が語られること。広く浅い露出より、狭く深い信頼。これは費用の面でも、地域の消耗の面でも、実は合理的な戦略です。
「観光客を増やしたい」という相談を受けたとき、私はまず問い直すことにしています。「増えたら、困りませんか」と。人数の目標を、価値の目標に置き換えること。地域の観光戦略は、その一歩から変わり始めます。
筆者:ジョーダン・フロリアン(KYOFLOW合同会社 代表)。ホテル・旅館の収益改善、観光地域づくり、日欧ビジネスの実務についてのご相談は、お問い合わせページからどうぞ。